わが心のカマコー
東郷賢
1980年卒の東郷賢(とうごうけん)と申します。恐縮ですが、母校を愛着を込めてカマコーと呼ばせていただきます。カマコー卒の人は皆さんそうでしょうが、私もカマコーを熱烈に愛しています。還暦を過ぎ、人生残り少なくなってきて振り返ってみると、カマコーで過ごした3年間で、私は「人生に開眼」したと明言できます。カマコーに行っていなければ、私の人生はひどくつまらない人生だったのではないかと思っています。本稿で、私のカマコーへの感謝を述べるとともに、カマコー愛溢れる同窓生の方々とカマコー愛を分かち合えればと思います。また、ちょっとだけ大学教育についてもお話ししたいと思います。
いきなりですが、日本の若者の多くは大学受験のために生きてるように見えます。良い高校、良い大学、良い会社に入れば人生安泰みたいな。本当は全くそんなことないのに、大人たちがそういう神話を作って子供たちを騙している気がします。私の中学校時代の周りの人の多くはそんな感じで、私もある意味、そういう考えに毒されていたと思います。
そんな私ですが、カマコーの入学式でいきなりカルチャーショックを受けました。同級生のF君が「長髪」だったのです。周りを見ると、先輩にも男子で髪の毛を肩まで伸ばした人が何人もいました。中学校では髪の毛が耳にかかっただけで、教師に髪の毛を引っ張られていじめられていましたから青天の霹靂です。早速、私も髪の毛を伸ばし始めました。我ながら感化されやすいと思います、笑。
他にも、サングラスのまま授業をする教員、授業を抜け出してサーフィンしたり、バイクを乗りまわしている同級生がいたり。日々、驚くことが多かったのですが、そのうち慣れて来て、自分でもいろいろ楽しむようになりました。授業を抜け出して海岸で日向ぼっこしたり、夏になると海岸伝いに泳ぎながら帰ったり。
で、気が付いたのです。「この人たち、人生楽しんでいるな」と。誰一人大学受験のために生きていない(まあ、そういう人と友達じゃなかっただけかもしれませんが、笑)。
カマコーは青春偏差値日本一の高校と言われているようですが、私も「青春」を十分に満喫しました。クラスキャンプや友達とスキー行ったり、美術部で絵を描いたり、女の子を好きになって振られたり、背伸びしてお酒飲んでみたり、ちょっとここでは言えないようなことをしたり、笑。
だから、大学入って周りの新入生が喜んで遊んでいる様子になじめなかったです。もうすでに殆どやっちゃったので、そんなに面白くない。だから大学では勉強しました。自分の好きな勉強だけですけど。
いま、私は大学で教員をしていますが、良い大学、良い会社に入れば、人生安泰みたいな神話をまだ信じている人が多いです。そうすると、偏差値の高い大学に入った人は、「もう俺の人生これで安泰」と思って遊ぶ。そうでなかった人は、「これだけ努力したのにダメだった、もう遊ぼう」と思って遊ぶ。私のときもそうでしたけど、今でも多くの大学生は遊んでいます。
実は、データでも日本の大学生が勉強していないことは示されているのです。内閣官房のデータですが、日本の大学1年生の一週間の予習・復習の時間(つまり授業時間を除いた学習時間)は、0時間が約1割、1時間から5時間が約6割です。米国では約6割が11時間以上勉強しています。これが4年間続いたらどれだけ差が開くか。
大学の4年間って、本当に大事です。特に、これだけ技術進歩が激しいと、テクニカルな知識を使える人とそうでない人の給与の差はドンドンと拡大していきます。英語は話せた方が良いし、プログラミングもできたほうが良い。大学の専門の勉強もとても大事です。経済学部へ行けば統計学を知っていた方が良いですが、統計学は難しいです。
日本以外の大学生は、大学での勉強が自分の人生やキャリアに密接に結びついていると考えているので、一生懸命勉強する。他方、日本の大学生は遊んでいる。この大学時代の勉強の差が、いまの日本経済の長期停滞を招いていると思います。高校の時は、高校生しかできない「青春」をして、大学に入ったら勉強するのがいいと思います。
で、話を元に戻して、カマコーの素晴らしさの「人生を楽しむ」という点ですが、やっぱりあれだけ遊んでいた人たちは、大人になっても遊んでいますね。私の同級生も、いまも同級生とバンドを組んでいる人もいますし、私もおじさんサッカーで楽しんだりしています。ちなみにおじさんサッカーリーグでカマコーの先輩に会ったりします、笑。けど、周りを見回すと「人生楽しんでいる」人って、意外に少ない気がします。会社辞めたら、話す相手がいないとか。
振り返ってみると、本当にカマコーに行って良かったなと思います。運もあったと思いますが、カマコーでの経験をベースにとても楽しい人生を過ごせています。同窓生の方々もきっとそうだと思います。カマコーに感謝です。
東郷賢氏 1980(S55)年卒業
武蔵大学国際教養学部学部長 経済学博士
早稲田大学第一文学部、政治経済学部、Yale大学大学院卒業